2019年は小売業にとって厳しい年か

2019 年は小売・流通セクターにとって「例年以上に利益を稼ぎにくい」年となる可
能性が高く、しっかりした要因によって営業増益を確保しやすい企業の株価が相対
的に好パフォーマンスとなるだろう。よって、19 年度は例年以上に手堅い増益が見
込める企業として、三越伊勢丹ホールディングスセブン&アイ・ホールディング
ス、イズミをトップピックとする。

例年以上にセクター全体の利益確保が厳しくなる要因は、①消費増税(10 月 1 日施行
予定)、②人手不足による人件費上昇、③物流・IT 投資の増加による減価償却負担の
増加、の 3 点である。

弊社カバレッジ企業の 2018 年度・2019 年度の営業利益(IFRS 企業は事業利益)の増減
益率の弊社予想は下図表 3 の通りである。弊社では、ユニー・ファミリーマート
ールディングス(ユニーの売却による事業利益の減少)及び、楽天(有価証券評価益を
織り込んでいないため)の 2 社を除き営業増益が可能であるとみているが、営業増益
幅と内容には差が出るとみている。

コア事業の成長や継続的なコストダウンなどによって持続性のある営業増益を確保
する企業群:三越伊勢丹ホールディングスヤオコー丸井グループ、セブン&ア
イ・ホールディングス、イオン、あらた、PALTACJ.フロントリテイリング
2018 年度に発生していた一過性費用の消滅などによる反動増が見込める企業群:ア
シックス(在庫処分損の反動)、ZOZO(PB 関連費用の減少)、高島屋(日本橋別館などの
開業費用の軽減)、イズミ(新店開業費用の軽減、豪雨災害の消滅)

良品計画の魅力

エクイティストーリーは「国内事業の販売好調と海外事業の業績持ち直しによる増
益ピッチ加速」である。

19/2 期上期決算は 2 桁営業増益を確保したが、国内ではファミリーマートグループ向け販売減、海外事業の既存店売上伸び悩みなどが課題と
して浮上した。

弊社業績予想を引き下げるが、依然、19/2 期会社利益計画をクリア
するとみており、上期決算後に株価が低下したことで Overweight を継続する。
弊社では、同社がグローバル展開で成長を目指す以上、切れ目ない商品開発、グロ
ーバルでのSCM構築といった現在直面している課題を一つずつ解決していく必要が
あると考えている。

カタリストとリスク

株価上昇のカタリストは、「東アジア地域事業の成長加速」「国内販売基調の一段の
加速」など。
株価下落リスクは、「東アジア地域事業での在庫過剰・利益率低下」「国内での低価
格志向の強まり」「円高進行」など。

バリュエーション

弊社では同社の目標株価算出に当たり、同社の海外事業の営業利益構成比と
Bloomberg 予想 PER の相関性の高さに注目し(R2=0.5849)、両者の回帰式をもとにし
ている。目標株価 36,200 円は、すでに下期に入ったことで基準期を 20/2 期に変更、
20/2 期弊社新予想 EPS1,424.4 円に、20/2 期弊社新予想の海外事業の営業利益構成比
45.3%から算出される妥当 PER25.4 倍を乗じて算出。

コメリの魅力

エクイティストーリーは「収益体質強化による増益基調の継続」である。既存店売
上改善がなお課題として残るものの、会社施策を通じた経費抑制が一段と進んでい
る。エクイティストーリーは変更なく Overweight を継続する。

大型店の出店が増える中で増益基調を維持するためには収益体質強化を
図ることが重要と考える。19/3 期 2Q 累計(4-9 月)決算では、天候不順で園芸用品の
販売が不振だった反面、DIY 関連用品やリフォーム資材等の販売は好調、また
EDLP・改装などを通じた店内作業の簡素化が奏効し利益率が改善した。この先は一
段の経費抑制とともに改装を通じた既存店売上底上げが重要だろう。

カタリストとリスク

目標株価達成のカタリストは、「会社施策の推進によりプロ向け需要を取り込みなが
ら既存店売上改善や出店加速など中期的な成長ストーリーが出てくること」。
目標株価未達リスクは、「異業種も含めた競合激化により一般消費者の需要取り込み
が減少し、出店加速の中、売上高が伸び悩み収益悪化に見舞われること」。

バリュエーション

弊社では同社の目標株価算出に当たり過去最高営業利益を計上した 14/3 期の平均
PBR を採用している。目標株価 3,600 円は、すでに下期に入ったことで基準期を 20/3
期に変更、19/3 期弊社新予想 BPS3,464.8 円に、14/3 期の平均 PBR1.04 倍を乗じて算
出。

www.komeri.com

消費増税など厳しい材料が多いなか「コスト削減」「海外需要取り込み」に注目

過去 1 年間の小売セクターのパフォーマンスは対 TOPIX でアウトパフォームした。
特に、天候に恵まれ短期業績への安心感が広がった春や、外部環境懸念が高まるな
かで相対的にリスクが小さいとみられた秋に相対的に高い評価を受けた。ただ、弊
社カバーの専門店 13 社のうち過去 1 年間で対 TOPIX をアウトパフォームしたのは 5
社にとどまり、そのなかでもファーストリテイリングは年を通じて高いパフォーマ
ンスを示した。
個別銘柄でみると、過去 1 年間ではファーストリテイリング(9983)が圧倒的なベスト
パフォーマーで、島忠(8184)、ライトオン(7445)が続く。一方のワーストパフォーマ
ーはチヨダ(8185)で、青山商事(8219)、しまむら(8227)が続く。

 

ファーストリテイリングは高い増収率・増益率を確保しており、株価パフォーマン
スの高さは好業績に裏打ちされたものといえよう。図表 5 は、カバー銘柄の過去半
年間(3-8 月度または 4-9 月度)の業績をみたもの。同社は、国内ユニクロ事業の販売
堅調や物流見直しをはじめとした経費抑制、さらに国内ユニクロ事業の売上高・利
益規模を上回り始めた海外ユニクロ事業の高成長持続などにより、カバー銘柄のな
かで同期間最も高い増収率・営業増益率となった。
一方、ワーストパフォーマンスの 3 社(チヨダ、青山商事しまむら)は、同期間でい
ずれも既存店売上が低調に推移し販売不振が目立ち、値下げ増等による粗利率低下
もあって減収・大幅減益に陥っている。

 

、2019 年の専門店をみていくうえで、「EC との競合激化」「人件費増」など
中期的な問題が続くなか、10 月に予定されている消費増税もあり販売の盛り上がり
に期待することも難しいだけに、厳しい事業環境を前提にすべきとみている。
図表 8、9 は、2014 年 4 月の消費増税時の増税前後の小売業売上高の伸び率と株価パ
フォーマンスをみたものである。前回の消費増税時の小売業全体の売上高の動向を
振り返ると、①増税の 2 四半期前から駆け込み需要が発生、その後は増税直後の反
動減と駆け込み需要発生から一巡したところでの反動減があり、②年度ベースでみ
れば増税前年の 13 年度が前年比 2.9%増、増税後の 14 年度は同 1.2%減となった

2019 年に予定されている消費増税に関しては、①増税に際して消費落ち込みを回避
するための各種施策が決定されつつあること、②10 月実施予定という点でこれまで
の 4 月実施時の際と駆け込み需要等の影響が異なる可能性があること、③各社とも
コスト増のなかで販売戦略を組み立てる必要があること、など実際の影響を想定す
るには不確定要素が多い。ただし、弊社では、ひとまず株式市場で「消費増税のな
かで 2019 年は販売の盛り上がりに期待することが難しい」とみる向きが増えると考
えている。
厳しい事業環境を前提としたうえで増益を確保するため、弊社ではとくに 2019 年の
小売専門店の投資テーマとして
労働生産性改善を軸としたコスト削減」
「アジアでの成長やインバウンド需要取り込みによる成長期待」
をあげる。

 

 

 

 

楽天が携帯電話事業に参入する理由を三木谷社長がマーチャントパートナーへ説明した

 

1月30日、楽天市場出店パートナー向けのイベント、新春コンファレンスが東京都内で開催された。

 

そこでの三木谷社長の基調講演の報告である。講演の骨子は3点。第一に、携帯事業参入についてのアップデート。

携帯電話事業参入の背景

楽天市場の取引の70%超が携帯電話経由となり、携帯事業とEC/フィンテックとの連携が重要になった、

②携帯企業が逆にEC/フィンテックへの参入を進めており対抗する必要があった、と説明された。

blogos.com

そして基本戦略として、

①携帯料金引き下げでEC事業などに消費者の可処分所得がより向かう環境を作りたい、

②携帯事業が創出するデータを活用し、付加価値の高いサービスを提供する、③スモールセルなどを活用したクラウドネイティブな通信ネットワークで差別化する、などの考え方が確認された。

第二に、楽天市場のユーザーエクスペリエンスと生産性改善への取組みが示された。

具体的には、

RMS(Relationship Management System)強化、

②チャットボット機能などによる消費者とのコミュニケーション機能強化、

③ペイメントソリューションの強化、

④価格計算最適化機能の強化(Price and Inventory Optimization Program)の導入、などのAIによる出店企業への支援機能強化が挙げられた。第三に、ワン・デリバリーと銘打った、自社物流拠点の整備や商品送料の標準化の取組み。

①日本全国に9つの物流拠点を整備するべく、千葉県流山市大阪府枚方市に新たに自社物流拠点を新設した、②顧客維持獲得や商品販売約定では、簡素かつ一元化された価格体系が重要との認識に立ち、一定額以上の商品注文は送料を無料にする方針が検討されていることが示唆され、楽天市場出店パートナーへの理解と協力を求めた。

グループ内再編について

以上とは別に1月18日、楽天はグループ内再編方針を発表、2月中旬の取締役会議承認を経て実現する運びとなった。

当初の発表と異なり、

①EC事業は会社分割による子会社化を取りやめる一方、吸収分割方式により

フィンテック事業、

③モバイル事業、さらには④デジタルペイメント事業を子会社化する。

これによって、各子会社の財務の透明性を高めアカウンタビリティを強化、そして②~④の事業の信用評価を切り離すことによって、③や④の財務体質悪化が②に及ばぬようにする意図と見られる。

楽天カードの審査は甘いため、財務体質が悪化しやすい。

kureka-muryo.com

そのことへの対応も含まれているのだろう。

さらには、この再編によって、中期的に分離上場するオプションも可能となろう。

株価への影響

ややポジティブ。

まず、新春コンファレンスからは昨年よりもより統合され、かつ具体的な形で強固なプラットフォームを提供する楽天の取組みが示された印象。

ソフトバンクとヤフーが進めるクロスセル戦略に対して、楽天なりの対抗策が昇華されてきたとも言える。

特に、第三のワン・デリバリー戦略が実現できれば、消費者にとってのメリットは大きく、アスクルとの事業連携が遅々としている印象のヤフーのEC事業に対して有効な競争戦略となる可能性があろう。

次に、グループ内再編についても、楽天フィンテック事業の信用強化や財務オプション拡充の点から正しいだろう。